宗教や心のこと

宗教や心について、考えたこと

信じるということ

前回、S会のWEB技術責任者の自殺について書きました。ここのところ芸能人の自殺が多いですが、有名人の中で私が一番印象に残っているのは、旧民主党永田寿康議員の自殺です。

永田議員の実父は江戸時代中期から典医を務める家系の9代目で、医療法人池友会創設者で会長を務める資産家。永田氏は幼少時に両親が離婚したことで永田姓になりました。

永田氏は1993年に東大を卒業し当時の大蔵省に入省、1995年には大蔵省からUCLAMBA留学しましたが、1999年には退官して愛知二区の古川元久衆議院議員の公設秘書に。2000年には当時の民主党公認で衆議院総選挙に「落下傘候補」として千葉二区から出馬し当選。以後実父から多大な選挙支援を受けることになります。

衆議院議員を3期務め、当時の民主党の若手のホープとして期待されましたが、過激な言動が多い人でした。ヤジは国会の華で若手議員はヤジ係といいますが、永田議員はエリート意識もあってか特に言葉が汚く、「平成の爆弾男」とも呼ばれました。「加藤の乱」のとき、本会議場で演説していた松波健四郎議員に対し、「ちょんまげ野郎!」とか「お前、(扇千景)党首と何発ヤッたんだ!」などとヤジを飛ばしたため、松波議員がブチ切れて水を掛けたというエピソードは特に有名です。

永田議員の華麗な経歴に水を差したのは「ホリエモンの偽メール問題」。当時粉飾決算疑惑の渦中にあったホリエモンが、2005年の衆議院選挙への自身の出馬にあたって当時の武部勤自民党幹事長に多額の金銭を贈ったとされる問題でしたが、永田議員はどこかからその証拠とされるメールを入手、2006年2月の国会で武部氏や自民党を追及したところ、そのメールの信憑性を指摘されて国会が紛糾し、大問題となりました。

そのメールですが、黒く塗りつぶした箇所が多く、当初から「怪しい」と言われていました。当時私も怪しいと思いました。しかし永田議員は絶対の自信を持っており、自民党側が情報提供者の開示を求めても「情報提供者を守るため」と応じず、当時の民主党代表の前原誠司議員が「なかなか確度の高い情報だ」と永田議員を後押ししたため、この問題の真偽如何で当時の民主党の党としての浮沈が掛かる事態となりました。

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偽メール

その後、その証拠とされるメールが偽物であったことが判明。ガセネタを鵜呑みにして国会を混乱・空転させ、政治への信頼を失墜させた永田議員は懲罰動議の直前に議員辞職、当時の民主党執行部は総退陣に追い込まれています。

 

永田議員は議員辞職後どうなったのか?

次期総選挙で出馬を模索しますが当時の民主党からは当然相手にされず、独自に実父の地元である九州からの出馬を模索するも実現しませんでした。親族の経営する企業に入社するも1年足らずで退社、その後親族の経営する公認会計士事務所に入所するもまもなく退所、さらに以前から創価学会と対立(選挙の際に学会員が住民票を移している発言等による)し、別の問題発言により学会から訴訟を起こされていたのが結審、書類送検・略式起訴・罰金刑があったり、夫人からの離婚調停が始まる(ほどなくして離婚)などのトラブルが続々と発生、次第に精神を病むようになっていきます。

2008年11月には実父が関与する福岡県の精神病患者のためのサナトリウムで手首を切って抜け出して、徘徊しているところを警察に保護されており、同月自殺も図っています。(未遂)そして翌2009年1月、入院していた北九州の八幡厚生病院(精神病院)から程近いマンションから飛び降りて亡くなってしましました。

その北九州の病院では、他の患者さんの見舞に来た人達が、永田氏が院内をよだれを垂らしながら呆然と歩く姿を時々見かけていたといいます。

 

なぜこんなことになったのでしょうか?

1つには、そもそも偽メールを捏造した者が居たから。その張本人はフリージャーナリストの西澤孝と名乗った詐欺師・捏造ライターで、後に身分を詐称して示談金詐欺で逮捕された松島という週刊ポストの記者でした。松島の捏造メールと判明した時点で、本来ならば偽計業務妨害刑事告発されるべきでしたが、当時の民主党が自らの恥を晒すのを避けたため、あれだけの事態を引き起こしたのに刑事上は一切責を問われず「お咎めなし」でした。

もう1つは永田議員自身で、件の偽メールを信じ込んでしまったから。彼も一瞬は「怪しい」とは思ったのかもしれません。しかしこれで自民党を追い込んでやれるという高揚感が理性を捻じ伏せたのではないでしょうか。エリート街道を突き進む、「平成の爆弾男」だったからです。

ただ彼も、高い知性と叡智を持ってはいました。

「人間はどうして判断を間違うのか。
それは正しい情報が入って来ないからだ。
なぜ正しい情報が入って来ないのか。
それは人間は自分の聞きたいことしか聞かないからだ。
人間は真実を信じる生き物ではなく、自分の信じたいことを信じてしまう生き物なのだ。」

これは辛坊治郎さんが講演会で30代の民主党議員の言葉ですとして紹介していたもので、「どうです?なかなか含蓄のある言葉でしょう?」と聴衆の同意を求めた上で、「実はコレ、偽メールに引っ掛かった永田議員の言葉なんですよ」と明かし「アンタ、あれほど俺に言うてたやんか!」と笑いを誘っていたとのことですが、それは永田氏が亡くなる前のこと。辛坊さんも発言当時、まさかあの平成の爆弾男が自殺するとは思ってもみなかったのだろうと思います。

永田氏の自殺を仏教的に言えば、せっかく高い知性と叡智を持ちながら、煩悩に負けて身を滅ぼしてしまったとでも表現すべきで、彼の来世はおそらく修羅道という事になるのでしょう。